会社の形態には株式会社と合同会社、合資会社、合名会社の4つがあります。
その中で、出資額の範囲内で責任が及ぶ有限責任で事業を営むことができるのは株式会社と合同会社の2つに絞られます。
株式会社こそもっとも一般的な会社形態であるのは間違いありません。
しかし近年は、合同会社として新設されてる会社も数を増やしており、このどちらを選べばいいのかで悩んでいる起業家の方も多いはず。
会社を新たに設立するとき、どちらの形態を選ぶのが最適なのか、今回はそれを判断するために9つのポイントで合同会社と株式会社を比較していきます。
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【ライター】嶋崎 -
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合同会社とは
合同会社とは2006年に施行された会社法で導入された新しい会社形態です。
アメリカ合衆国の州法にあるLimited Liability Companyをモデルとしており、日本版LLCとも呼ばれます。
合同会社の特徴
合同会社は会社の出資者と経営者が同じという特徴があります。
株式会社のように出資者(株主)と経営者が分離していない為、限られた出資者の意思がまとまっていれば重要な決定をスムーズに行う事が可能となります。
有限会社はどうなった?
合同会社は2006年の会社法で新たに設立が出来なくなった有限会社に相当するものだといえます。
ただし、依然として有限会社の名称は残っています。
会社法改正後、それまで有限会社だった企業は全て株式会社として存続することになったのですが、社内のルールを変更しない場合、特例有限会社として存続するからです。
株式会社とは
株式会社とは、株式を発行して資金を調達してビジネスを行う会社の事です。
株式会社の特徴
複数人から資金を集めることで資本の集中に優れ、大きな事業を起こすのに向いています。
発行した株式は東証やマザーズ、ジャスダックなどに上場していなくても、相対取引で売買をする事ができますし、大資本の場合は出資者の数が多くなるため、1人当たりのリスクの分散が出来ます。
このような特徴から通常は株主が経営業務に直接関わる事はありません。
個人でも1円から株式会社ができる
2005年までは最低資本金制度によって、株式会社を設立するには1000万円の資本を準備する事が必要でしたが、2006年の会社法改正により、出資者1人、出資金額1円からでも株式会社を設立することが可能となりました。
今では大資本を持っていない個人でも簡単に株式会社を設立することが出来るのです。
9項目で徹底比較!合同会社と株式会社の違い
合同会社と株式会社の違いを表にまとめて見ました。
比較項目 | 合同会社 | 株式会社 |
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設立費用 | 定款に貼る収入印紙代 →4万円(電子定款の場合は不要) 定款の謄本手数料(登記)→ 不要 登録免許税(登記)→ 6万円または資本金の額の0.7% |
定款に貼る収入印紙代 →4万円(電子定款の場合は不要) 定款の認証→ 5万円 定款の謄本手数料(登記)→ 1ページ250円 登録免許税(登記)→ 15万円または資本金の額の0.7% |
組織編制 | 出資者が複数いる場合、全員の同意がないと意思決定出来ない。定款に注意。 | 株主総会に基づき重要意思決定をする |
最低出資金額 | 1円以上 | 1円以上 |
決算公告 | 社外に公表する義務なし | 出資者(株主)と実務者が異なるため必要。 |
利益配分の方法 | 定款による | 出資金(株式)に応じて配当金を支払う |
税金 | 同じ | 同じ |
役員の任期 | 自由に決定可能 | 株式公開している会社の場合、取締役は2年。非公開会社(譲渡制限あり)なら10年 |
代表者の肩書 | 代表社員 | 代表取締役 |
社会的認知度 | 広まりつつある | 高い |
それぞれについて解説をします。
設立費用
会社を設立するには様々な事務手続きや登記申請費用がかかります。
表にまとめたように合同会社の場合、資本金の額が高額でない限り、電子定款を使えば合計で6万円程度の費用で済みます。
これに対して株式会社は登録免許税の下限が15万円ですし、定款の認証に5万円、定款の謄本手数料もページ数に応じて必要となります。
出資者が一人だとしても、株式を発行するため手続きが煩雑になるのです。
結果として、株式会社の場合は設立に最低20万円以上の費用がかかります。
イニシャルコストとしては合同会社の方がかなり安いといえるでしょう
どちらも個人で手続きをすることが可能ですが、費用を払って税理士などの専門家に依頼すれば必要書類を揃えてくれるのでかなり楽を出来ます。
組織編制
株式会社の場合は出資比率に応じて発言権があり、株主総会で重要事項は意思決定されます。
個人で起業した場合は全株主=自分ですし、家族と分け合った場合でも過半数を自分が握っていれば自由に決定を下せます。
これに対して合同会社の場合は出資者が複数いる場合、全員の同意が必要となります。
個人なら問題ありませんが、家族や他人と合同会社で起業した際、自分の出資金額の方が圧倒的に多くても全員の同意が得られなければダメです。
奥さんを社員とした場合は、離婚を機に問題が起きる可能性がありますし、出資者が退社した場合、出資金も減るので補充する必要があります。
出資者は社内に限るのが合同会社のルールだからです。
その為、会社の定款作成時に意思決定のルールを明確に盛り込んでおく必要があります。
最低出資金額
両方とも1円から設立可能です。
ただし資本金の額は会社の基礎体力のバロメーターとして機能します。銀行などの金融機関から融資を受ける場合は資本金が大きいほうが社会的信用を持っています。
会社法が改正される前まで、有限会社が300万円、株式会社で1000万円の資本金が必要だったのは、出資者や取引相手を守るためでした。
現在は起業のしやすさが重要となっているため、少ない資本金でも法人成り出来るのです。
決算公告
会社の成績を知るべき人間は出資者です。
合同会社は経営者自身が出資者なので社外に決算報告する義務はありません。
しかし、株式会社の場合は出資者と直接の経営実務者が分かれているため、定期的な決算報告書の作成や、株主総会を開いて株主に報告をする義務があります。
ただし、一人株主の会社の場合、この業務はかなり簡略化出来ます。
利益配分の方法
株式会社の場合は業績に応じて、株式の保有量に比例した配当金を支払いますが、合同会社の場合は株の発行がないため、会社のルールに従います。
税金
表に記載の通りです。株式会社と合同会社で法人税や法人住民税、法人事業税、消費税に差はありませんし、補助金や助成金の申請面でも同様です。
経営者個人にかかる所得税や社会保険、住民税も一切同じです。
税金面で片方が優遇されることはないので、売上や節税面から会社の形態を選ぶ事は出来ません。
役員の任期
表に記載の通りです。非上場の株式会社の場合は10年まで務めることが出来ます。また、重任といって任期が切れた後も継続することが可能です。
個人が設立した株式会社の場合は、常に重任しつづけているのです。
合同会社の場合は会社の定款で自由に決めることが出来ます。
代表者の肩書
合同会社では代表社員、株式会社では代表取締役が代表者になります。
社員ってなに?
実のところ、社員という言葉は少しややこしい言葉です。
一般的に社員というと、経営者や役員とは分けて、会社の構成員、組織に所属して業務と引き換えに給料を得ている人の事を指します。
しかし、法律上は出資者の事を社員と呼びます。
つまり、株式会社の場合は株主が社員であって、一般的な社員は法律上の「社員」ではないのです。
これは正社員や派遣社員でも同じで、出資者でない社員はありえません。
では一般的に社員とされている立場の人は何と呼ぶのか、というと明確な名称は定められておらず、会社の「従業員」として法律上、社員とは明確に区別されます。
合同会社の代表社員とは、出資者である社員の代表者という意味で代表社員なのです。
現状は代表社員という名称が十分に浸透しているとは言えませんが、法律的な経緯を知れば納得いくかと思います。
なお、代表社員が名刺に社長やCEOと記載しても問題ありません。
ただし、代表取締役は明確に株式会社の代表者を意味しているので、合同会社の代表社員が名乗ることは出来ないので注意して下さい。
社会的認知度(信頼度)
認知度の面では株式会社が圧倒的です。合同会社と聞いてもイメージが浮かばない人が多いでしょう。
ただし、毎年設立される合同会社の数は増えています。国税庁による2014年度の調査では39,400社が存在しており、少しずつ一般的な認知が進んでいくことは間違いありません。
合同会社のメリット・デメリット
次に合同会社を選んだときのメリットとデメリットを見ていきましょう。
合同会社のメリット
これらの項目を比較した結果、合同会社のメリットとしては、設立のしやすさと事務処理の簡略差の面が株式会社に勝ります。
個人で起業をして、開業資金も自分で全部まかなう場合は合同会社が良いでしょう。
合同会社のデメリット
合同会社として法人化するデメリットとしては知名度が低いため、古い大企業と取引をする際、軽く見られる恐れがあるという事です。
実体が同じだといっても、仕事をする上で株式会社の名称が必要になるケースもあるかと思います。
取引相手が株式会社以外とは直接取引しないという社内ルールを定めているケースもあります。
こういった場合は取引相手に仲介してくれる窓口となる会社を紹介してもらい、仲介手数料を払って口座を使わせてもらう事で間接的に取引をするのです。
合同会社で起業する場合は、業界の慣習や特性、取引相手との関係を考慮して選択する事をお勧めします。
株式会社のメリット・デメリット
株式会社を選ぶメリットとデメリットはなにがあるのでしょうか。
株式会社のメリット
株式会社のメリットはなんといっても資本の集中です。株式を発行することで複数人から出資を募ることが出来ます。
また、株式会社や代表取締役という名称は社会的なステータスとなっています点も大きいです。
会社の実体がどうであれ、株式会社という形態は取引先に信頼感があるのです。青色申告をしているような個人事業主とは違い、営業活動ではステージが違う相手と接点を持ちやすいです。
株式会社のデメリット
デメリットとしては設立時の費用がやや高額である点と、会社の実務とは別に株式関係の事務手続きが煩雑になり、定期的に書類代がかかる点です。
自分だけが出資している株式会社を立ち上げる場合は大分簡略化出来ますが、書類や手続きが必要である点は変わりません。
合同会社に向いている事業
ビジネスとして合同会社に向いている事業、というものがあるとすれば、IT系が当てはまります。
IT系のビジネスはフリーランスの個人事業主が多く、大きな資本を必要としないビジネスが多いです。
法人としても数人~十数人程度の会社が数多くありますし、IT業界自体が新しいので商習慣も柔軟です。
これらを考慮して、ITで起業をするのなら、合同会社にした方が楽だと言えます。
つまり広く資金を集める必要のない個人事業という事です。
また、既に資金調達面で不安の無い大企業も合同会社という形態が向いています。
実はAmazonも合同会社
あまり知られていない事ですが、インターネット販売サイトの頂点、アマゾンの日本支社であるアマゾンジャパンは2016年に株式会社から合同会社に変更し、法人登記を変えました。
正式名称はアマゾンジャパン合同会社といいます。
合同会社には出資者兼経営者として親会社のアマゾンが代表社員となっています。
ただし、法人が代表社員になると実務の代表者が不在になるので、職務執行者を選任しています。これがアマゾンジャパンの代表となります。
合同会社となる事で株主対策をする必要が無くなり、自由でスピードの速い意思決定が可能となります。
あの規模の事業を行っていて株式を発行していないのは脅威です。合同会社が怪しいとか、中小企業だと言われたらアマゾンの例を出すと相手も考えを改めてくれるかもしれません。
株式会社に向いている事業
株式会社に向いているのは、ほとんどすべてのビジネスです。
株式公開が必要な巨大なビジネスに参入できますし、株式非公開で個人ビジネスをするにしても株式会社の代表取締役社長という肩書は営業で大いに役立ちます。
まとめ
合同会社と株式会社、会社設立でどちらが最適なのかは今後のビジネスプランによって異なります。
スモールビジネスを展開し、スピーディーな意思決定を優先するなら合同会社がいいでしょう。
一方で、事業拡大を目指していくのであれば、株式会社を選択するのが適しています。
9つの項目で作成した比較表を参考にしていただき、ビジネスプランを照らし合わせて、最適な選択をするようにしてください。