企業間の信用取引での支払い方法として、現金の代わりに使う商業手形には約束手形と為替手形の2種類があります。
一般的には約束手形を利用するケースがほとんどですが、輸出入など貿易決済では為替手形もよく利用されています。
為替手形は約束手形とは違ったしくみとなっているので、今回は為替手形についてわかりやすく解説しましょう。
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【ライター】嶋崎 -
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為替手形とは?
それでは為替手形のしくみについて約束手形と比較しながら解説しましょう。
為替手形は当事者が一人多い
約束手形はお金を支払う人と受け取る人の2名だけの関係です。
譲渡することができるので関係する人数はもっと多くなりますが、最終的に支払う人と受け取る人の2名が当事者となります。
これに対して為替手形の場合は当事者が3名となります。
例えば、A社、B社、C社がそれぞれ売掛取引の関係にあったとします。
AがBに商品代金の支払い義務があり、さらにBもCに支払い義務があるとします。
お金を支払う流れがA→B→Cとなるので、Aが直接Cに支払うと効率がよくなります。
この場合にAが直接Cに支払う手形の発行をすれば、Bを経由することなくCに支払うことができます。
このとき発行される手形を「為替手形」と呼んでいます。
約束手形では振出人と名宛人との関係でしたが、為替手形では「指図人」が新たに加わります。
さらに関係者が増えることで約束手形とは言葉の意味も違ってきます。
次に振出人・名宛人・指図人の関係を比べてみましょう。
振出人・名宛人・指図人の関係
約束手形では手形の振出人は支払人であって、名宛人は受取人というシンプルな関係です。
しかし為替手形では振出人は為替手形を振り出すだけで支払い義務はありません。
前述のABCの関係に当てはめると、Bが振出人です。
また、名宛人は為替手形と約束手形ではまったく反対の意味になり、手形代金を支払う支払人になります。
指図人は約束手形では存在しませんが、為替手形では受取人となります。
これらの関係は少しややこしいので、下の図を参照してよく関係を理解しておきましょう。
約束手形 | 為替手形 | |
---|---|---|
振出人 | 支払人 | 振り出すだけの発行者 |
名宛人 | 受取人 | 支払人(引受人) |
指図人 | × | 受取人 |
約束手形にはない指図人について、ABCの関係はCを中心にして考えるとわかりやすくなります。
つまりABCの中でお金が必要なのはCなので、CがBに指図して為替手形を振り出させたと考えます。
すると指図人が受取人であるということがわかりやすくなります。
また、実際にお金を支払うのはAなので、振出人Bは手形を振り出すだけで、名宛人のAが支払人であることもわかりやすくなります。
為替手形の仕訳ポイント
為替手形の仕訳は関係者が増えるため、それぞれの立場で仕訳のしかたが違うので注意しましょう。
振出人の仕訳
前述のABCの関係では手形を発行するのは振出人のBになります。
BはCに対して10万円の仕入代金の支払い(買掛金)があるとします。
またBはAに対して同じく10万円の売掛金があります。
Bは手形を振り出すことで、売掛金で仕入代金を支払うことになります。
借方 | 仕入10万円 |
---|---|
貸方 | 売掛金10万円 |
名宛人の仕訳
名宛人(A)はBに対する買掛金の支払いを為替手形によってCに支払います。
つまり買掛金が支払手形に変わるということになるので、下記の仕訳になります。
借方 | 買掛金10万円 |
---|---|
貸方 | 支払手形10万円 |
支払いに使用する手形は約束手形でも為替手形でも勘定科目は「支払手形」となります。
同様に受け取った手形はすべて「受取手形」という処理になります。
指図人の仕訳
指図人(C)は支払う相手が変わっただけで、為替手形を受け取ったという点では変わりはありません。
Bに対する売上代金を受取手形によって受け取ったという仕訳になります。
借方 | 受取手形10万円 |
---|---|
貸方 | 売上10万円 |
「でんさい」で為替手形も利用できる
為替手形は関係が複雑になることもあって、一般の商取引ではあまり利用されていません。
しかし、債権者が主導して手形を振り出させることで、一種の取立ての意味もあるので、使いこなせれば資金繰りも楽になります。
電子記録債権債権として手形を利用すると、為替手形と同じような使い方がもっと簡単にできます。
でんさいネットとは?
全国銀行協会が運営する電子債権記録機関を「でんさいネット」と呼んでいます。
電子記録債権は手形や売掛債権を電子的に記録し、今までにない使い方ができる債権の新しい形です。
でんさいネットに債権を登録することで、手形では次のメリットが生まれます。
・でんさいネットで記録保管するので、盗難・紛失のリスクがない
・今まででできなかった分割が可能になる
特に債権の分割が可能になったことで、高額な額面の手形も分割して複数の取引先に支払うことができます。
通常の手形であれば一度手形割引などで現金化しなければできなかったので、割引手数料の節約にもなります。
債務者請求方式と債権者請求方式
「でんさいネット」では手形の振り出し方法は2種類あります。
約束手形では債務者が債権者に手形を振り出しますが、同じように「でんさいネット」では「債務者請求方式」によって手形を振り出します。
為替手形は債権者が振り出しを指図しますが、「でんさいネット」では「債権者請求方式」によって、債権者が債務者に手形の振り出しを要求することができます。
もちろん債務者の承諾がないと振り出せませんが、実際の為替手形でも「引受」と呼ばれる承諾が必要となります。
また、実際の手形と「でんさい」による手形では金額や支払いサイトに制限があります。
額面金額
・現物の手形は制限なし
・「でんさい」は1万円以上100億円未満
支払いサイト
・現物の手形は制限なし
・でんさいは振出日から7営業日以上1年後の応答日まで
「でんさい」に制限があるといっても現実的には十分対応できる範囲内となっています。
為替手形のメリット・デメリット
最後に約束手形と比較して為替手形のメリット・デメリットを検証してみましょう。
為替手形のメリット
基本的に手形としてのメリットは支払人にとっては、約束手形でも為替手形でも同じで、支払いを先送りにすることができるというものです。
手形では90日から最長120日まで支払いを猶予することができるので、支払い期日まで資金繰りをする猶予が生まれます。
受取人のメリットとしては、手形という有価証券を受け取ることで口約束よりは法的な裏付けを得ることができます。
また、裏書譲渡や手形割引での現金化もできるという点もメリットのひとつです。
特に証明するも必要なく、裏書が連続していれば最終的な手形所持人に現金を受け取る権利が認められます。
手形割引では取引銀行や割引業者に持ち込んで、手形割引料を支払うことで現金化でき、融資のように金利を支払って返済する必要もありません。
為替手形のメリットとしては、債務者に対しての取立て効果があるという点です。
取引先の承諾は必要ですが、現金払いを要求するよりも為替手形を請求するほうが、承諾を得やすいメリットがあります。
為替手形のデメリット
指図人(受取人)にとっては支払いサイトが長いほど現金化が遅れるのでデメリットになります。
また取引先が引き受けなければ、為替手形そのものが発行されないリスクもあります。
手形不渡りのリスクは手形全般のリスクですが、為替手形の場合は特に支払いをする名宛人と直接取引がないことが多いので不安要素が大きくなります。
振出人は支払いと受け取りが相殺され、名宛人は支払い先が変更になるだけでメリットもデメリットもありません。
為替手形と収入印紙
印紙代に関しては約束手形も為替手形も額面金額によって決められているので、違いはありません。
問題は印紙代をだれが負担するかという点です。
基本的に手形の場合は振出人に印紙代の支払義務があり、約束手形の場合は振出人が手形支払いをするので間違えることはないでしょう。
ただし白地手形で金額が記載されていなければ、手形発行時点では印紙は不要で、後で金額を記載した人が印紙代を負担することになります。
また振出人欄が空欄の場合は、手形を作成した人が印紙代を負担するのが原則です。
為替手形も基本的には手形の振出人が納税義務者ですが、指図人が為替手形の作成を依頼するので指図人が負担することが慣習のようになっています。
指図人も立場上、得意先である振出人に負担を要求できないことが多いので、実質的に指図人の印紙税負担が定着しています。
まとめ
為替手形についてはご理解いただけたでしょうか?
為替手形は約束手形よりも複雑で、日本では貿易取引など遠隔地の取引で主に利用されていることもあり、実際に利用することも少ないのでなじみのない手形です。
取引先に依頼された場合に困らないよう知識や用語は身につけておきましょう。
また経営者は決済手段のひとつとして約束手形や為替手形、小切手などの情報は常識として覚えておきましょう。