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恵文社 鎌田裕樹さん

【前編】「恵文社一乗寺店」 若き書店マネージャー 鎌田裕樹さんが目指す恵文社の新しいカタチ

こんにちは。京都の大学生 マル(21)です。

突然ですが、みなさんは本をよく読みますか?

私はちょっと前まではあまり本を読まなかったのですが、マンガを自分で描いていることもあり、ネタを仕入れるために読み始めたのがきっかけで、最近は本を読むことが好きになりました。

また本を読むだけでなく本屋に足を運ぶことも楽しみのひとつです。
本屋には様々な本が並べられ、並べられた本を眺めるだけでもワクワクしてきますね。

京都には特色ある本屋がたくさんあります。
その中でもどうしても話をうかがってみたかった3つの本屋に行き、書店員のかたにインタビューさせていただきました。

第1弾は、京都市左京区にある恵文社一乗寺店です。

恵文社一乗寺店は、イギリスのガーディアン誌が2010年に発表した「世界で一番美しい本屋10」に日本で唯一選ばれた書店です。
本の品揃えと陳列がとても個性的で、本だけでなく雑貨もたくさん並んだ暖かい雰囲気の店内です。

お店へうかがうと、書籍のマネージャーを務める鎌田裕樹さんが出迎えてくださいました。

 

──こんにちは。
本日は取材をお受けいただき、ありがとうございます。
どうぞよろしくお願いいたします。

鎌田:こんにちは。
よろしくお願いします。

恵文社 鎌田裕樹さん
★鎌田裕樹(かまた・ゆうき)さん
千葉県出身1991年生まれ。
同志社大学卒。
在学中、18歳から新刊書店のアルバイトをはじめ、数年の社員経験後、恵文社入社。
よく読むジャンルは海外文学と人文書。

必要なのは目利きと発信を続けること

──さっそくですが、恵文社一乗寺店さんの創業時のお話を教えていただけますか?

鎌田:ここ一乗寺店は40年ほど前にできてるんですよ。
1975年ですから、実は老舗なんです。
すごいですよね(笑)。

──すごいですね。

鎌田:今、駅前の本屋さんに行くと、本のラインナップはだいだい同じなんです。
狭い坪数で効率よく売上げを上げていこうと思うとそうするしかないんです。
ベストセラーとかコミックとか雑誌に特化していくっていうのがマーケティング的にもうしょうがないことで、どこの本屋さんも取り扱う商品がだいたい一緒になるんですよ。

──確かに駅前の本屋さんって本のラインナップがだいたい同じ気がします。

鎌田:それが全盛だったのが70年代で、金太郎飴書店って言葉が生まれるくらい、どこの本屋さんも同じ本のラインナップだったそうです。
それにうちのオーナーが違和感を覚えて、街中じゃなくて郊外だったら普段見ないような本とかサブカルチャーの本を置けるお店を作れるんじゃないかと考えたそうです。

またそのオーナーがヴィンテージとかそういうものが大好きな人なので70年代からアンティークっぽい雰囲気になっていたみたいです。
今でこそお洒落な書店って増えたと思うんですけど、当時70年代ではかなり斬新だったんじゃないかなあ。

──そうなんですね。

鎌田:また一乗寺になんでこういう店を作ったかというと、芸術・ものづくり系の大学がこのまわりだけで3つあるっていうのが一番大きい理由です。
京都でこういう店やるっていったらやっぱり左京区でっていうのもあったみたいです。

昔はうちで働かれていた作家さんも結構いたそうです。
個性的な人たちが集まってこの店を築いてきた時代があって、その次に彼らを見て育った僕らみたいな世代に変わってきてるんですよ。

 

──創業当初から本だけでなく雑貨も販売していたのでしょうか?

恵文社 雑貨書店内には雑貨も並ぶ


鎌田:
雑貨を置くようになったきっかけっていうのは、ミナ・ペルホネンっていうブランドの展示をやったことです。
当時書店でそういうものを置くっていうのはかなり斬新だったみたいで、ものすごい反響があったそうです。

本屋さんに長く勤めている人って雑貨を扱うことに抵抗があったりするんですけど、まざまざと実績を見せられるとそうは言ってられなくなったみたいですね。
そこから本だけじゃなくて、どんどん面白いものを置こうっていう方向にシフトしていったみたいです。

──なるほど。徐々に雑貨を置くようになっていったんですね。

鎌田:今でこそ雑貨を扱ってる本屋っていっぱいありますけど、昔はそう多くはなかったでしょうね。
90年代に本だけじゃなくて面白いものを置いたっていうのが恵文社の名を売る一因になったと言えます。

──他の書店との差別化をしてきたんですね。
他にも工夫されていることや意識的に取り組まれていることはありますか?

鎌田:恵文社一乗寺店は郊外にありますが、それでもわざわざ来てくれる人が増えるように、本や雑貨の選び方、ブログやTwitterで本を紹介する文章には力を入れています。

本って利益がすごい少ないんですよ。
1冊あたり200円から300円ぐらいです。
駅前とか中心地につくると土地代などにすごいお金がかかるので、家賃が5倍とか10倍とかになって、その分売らなきゃいけない。
駅前や街中の本屋って黙ってても人が来ます。
そうなればふらっと入ってくる人が買う本に特化していくのが自然ですよ。

でも恵文社一乗寺店は郊外に店をかまえて毎月かかる費用を下げてるからこそ、遊びのきいたセレクトとかそういうものができます。

恵文社一乗寺店一乗寺に店を構える

──なるほど。
土地代を下げることでこだわりのセレクトが可能になるということですか。

鎌田:またセレクトした本を並べることで、そうした普通の書店には置いていないような本を目当てに、お客さんが郊外まで足を運んでくれるっていう循環になっていけばいいなと思うんですよ。

そのために必要なのは目利きと発信を続けるということ。
それがないと僕らみたいな店はなかなかやっていけないですからね。

偶然の出合いを大事にしてほしい

──たしかに、このお店でしか出会えなさそうな本がたくさんあります。
恵文社一乗寺店さんは本のセレクトに加え、本の陳列にも特色がありますよね。
一般的な書店では特に文庫本や漫画などは出版社ごとに陳列されていますが、このお店では出版社ごとではなくテーマごとに本を並べられているのが印象的です。

恵文社 本棚テーマごとに本が並ぶ


鎌田:
うちがこうやって本を並べるのにはふたつ理由があって。

ひとつ目は、本を選んで置こうとすると、どうしてもこのようにテーマごとに並べるようになるっていうのがあるんですよ。
出版社ごとに分かれていると、アーカイブ化(保存して記録化)されたものとして本を探すときにはすごい便利なんですね。

でもうちはテーマごとに本が並んでいて、お客さんからしたら本を探しにくい店やと思います。
そのかわり、その人が知らない本とか、知らないジャンルやけど実は隣り合ってる本を、グラデーションみたいに提示できる。
ジャンルもはっきり分けてないので。
知らないもの、偶然出合ったもの、そういった本との出合いを大事にしてもらいたいって思いがずっとあります。

──偶然の出合いですか。

鎌田:知ってる本だけ読んでたら広がりがないんで、知らない本に飛び込んでみるっていうのはすごく大事。
ネットで調べたら何でも出てくるけど、ネットショップに出てくるオススメってデータで関連してる本しか出てこないじゃないですか。
でも、本を読み込んでる人間が「この本とこの本は関わってるんや。」って横に置いたら、「おっ!」と思ってくれるお客さんはいる。
僕は若いので絶対的な知識量が少ないから、それをインプットしまくって、30歳くらいまでに僕にしかできないような棚を作れるようになったらいいなって思います。
今はもう勉強、勉強で。
難しいですけどね(笑)。

──なるほど。

鎌田:ふたつ目の理由としては、ゆっくりと棚を見てもらうためです。
あいうえお順に並んだらうちなんか一瞬で見終わっちゃうじゃないですか。
大きい書店には品揃えで勝てないので、同じ土俵で勝負しません。
そこはもう、弱者の発想ですね。

大きいスーパーもあれば、小さくても品揃えにこだわっているスーパーがあるのと同じように、大きい資本がないからこそ弱者の手段を使うっていうのをオーナーから聞きました。
これはもうマーケティングとかそういう話ですけど。

「あの本ありますか。」って聞かれてうちには大体無いことが多い(笑)。
ヘンな本とか、その筋の好きな人が探してる本とかは、かなりの確率であると思うんですけど。

今はもう僕らより小さい書店があるんで、うちが意外と大きいとかよく言われるんですけど、普通に考えたらめっちゃ小さいやんっていうのがあるので、弱者の視点っていうのを見出していけたらいいなと思ってます。

 

──そうなんですね。実は僕は漫画が好きで、大学の漫画研究会に入っています。
こちらに初めてうかがった際、書籍だけでなく、漫画も置いてあるんだ!と嬉しく思いました。
漫画を置いている理由、どういった漫画を選ぶかの基準を教えていただけますか?

恵文社 マンガ 本棚漫画のコーナー


鎌田:
漫画も以前はもっと多かったらしいです。
というのも70年代、80年代のサブカルチャーってほぼ漫画だったと思うんですよ。
ガロとかCOMとか。
ちょっとグロもあるような、楳図かずお先生とか、そういうのが全盛だった時代があって、その当時に漫画の選書をしていたスタッフが、かなり漫画への造詣が深い人がいたみたいです。
そういうこともあって伝統的に昭和の匂いがする漫画とかは強かったみたいです。

──確かに昭和の漫画が多いイメージですね。

鎌田:そのなごりで今もありますけど、漫画のスペースは狭いですね。
だから新刊が出たり、これ置いとかなあかんやろっていうものは選んで置いてるって感じですかね。
すべての新刊まではなかなか見れていないので、そこはたぶん漫画好きの人からしたら、もうちょっと手を伸ばしてほしいなっていうのがあるのかもしれないですけど。

あとは少年コミックスとか一切置いてないじゃないですか。
それも理由があって。
昔うちもハリーポッターとか置いたら売れるんじゃないかってことで発売日にめっちゃ仕入れて店頭に置いたらしいんです。
けど、1週間で2冊しか売れなかったらしくて(笑)。

──そうだったんですね(笑)。

鎌田:うちはそんなん置きませんっていうよりかは、売れへんから置かないという感じです。
だから少年コミックスとか置いても週に2冊とかしか売れないんじゃないかなって思います。
悲しいですよね(笑)。
普通の書店さんってそこで売り上げを取るんですけど、うちではそういうのもないんですよ。

でもまあうちが求められてるものとはまた別やということ。
コミックはサブカルだけじゃないですけど、他の書店では見ないものを置くようにしています。
他の書籍と考えは同じですね。

書店の責任者としてプレッシャーもやりがいもある

恵文社 絵本 本棚絵本も多く並ぶ

──恵文社一乗寺店さんは他の書店には見られないような独自の本が並んでいますし、その陳列もユニークです。
その分、お客さんが本選びに迷われることも多いのではないでしょうか。
お客さんにアドバイスを求められることはありますか?

鎌田:ありますね。
絵本とか特にどれがいいんですかとか言われますね。
あと、大学生っぽい男の子から「江戸川乱歩ってどこから入ったらいいんですか。」って質問を受けてすごく嬉しかったんですよ。
「まだ読む子いるんや。」って思いました。
僕もちょうど18歳とかで乱歩を読み始めたので、特に若い人に聞かれると嬉しいですよね。

他には還暦を迎えたようなマダムなお客さまも何人かいらっしゃいます。
毎回僕にオススメの本を聞いて、その本を3冊くらい買ってくれるんです。
そうやってるうちに、僕がオススメしようと思っていた本を、僕が言わなくても勝手に持って来て、買って行ってくれたり(笑)。

なんかね、そういうのは嬉しいです。
本屋ってしゃべる機会があんまりないので。
アドバイスを求められることに対して、僕らは嫌な気持ちに全然ならないです。
そういうのはどんどん聞いてもらいたいですね。
せっかくこういう店に来てるんやったら、いまオススメなんですかとかこれ面白いんですかとかでもいいんで聞いてもらえればと。

──客層としては本好きのかたや、本に詳しいかたがよく来られますか?

鎌田:昔はそうだったみたいです。
でも恵文社っていうのがこの10年くらいで有名になって、今では雑貨だけ見に来るかたや本をあまり読まないかたも来ます。

それが本好きのかたから否定的にとられることもあるんですけど、僕は普段本を読まない人も楽しめる本が揃ってて、玄人が見ても面白い本が揃ってるっていうほうが単純に書店として魅力的だと思うんです。
欲張りなんですけど、うちは郊外にある本屋で、雑貨も置いていて、ギャラリーもあって、イベントもやっている(笑)。
客観的に見たときに面白いことやってるなと思ってもらえる。

──恵文社一乗寺店さんは本当に色々なことをされていますね。

鎌田:うちは書店というよりは恵文社っていう目で見られるので、そのプレッシャーは結構ありますけど、僕みたいな若い者にはすごくやりがいがあります。
僕がいきなり書店の責任者になったので現場で実際に勉強していくしかないですが、プレッシャーもやりがいもある感じはすごくありがたいですね。
僕より上に責任者がいたらこの速度で自分は成長していないかなって思います。

今スタッフみんなで相談してクオリティーを保っているという状況ですが、たぶん5年後にはこのスタッフにしかつくれない恵文社の姿が見えてくる気がしています。

── 上に責任者がおらず、自分が責任のある仕事をしなくてはならない分、成長できているということでしょうか?

恵文社 鎌田裕樹さん

鎌田:そうですね。
アドバイスを上司などに言われるよりかは、実際にお客さんに意見を言われたりだとか、そういうことのほうがやっぱり勉強になるので。
大変なこともいっぱいあるんですけど、1回やってみたほうが、人間って勉強して育つと思うんですよ。

大きい書店さんとかには検索機があるじゃないですか。
でもあれはアルバイトが育たなくなるんじゃないかなと僕は思ってるんですよ。
検索機はもちろん便利だと思いますし否定するわけじゃないですが、せっかく本屋で働いているのに本に詳しくなるチャンスが失われてるんちゃうかなーって思います。

──それを実感する場面はありますか?

鎌田:僕がたまたまこういう検索機がない店舗にずっと勤めていたので、本屋やっていくうちに覚えたことっていうのがたくさんあります。
例えば、お客さんにある作家の問い合わせを受けたとして、分からないと恥ずかしいじゃないですか。
「え、それ誰ですか。」とか言ったらダメなんですよ。

ある程度どういう人かとかは全部知ってなきゃいけないので、特にうちに置きそうな作家さんとか出版社の本っていうのは常にチェックしないといけないですし、そこから広がるお客さんとの会話もあります。
そういう意味で恵文社のスタッフっていうとプレッシャーもすごいんですけど(笑)。

今若いスタッフが多いですけど、世代交代という感じですかね。
平成生まれでも本好きな人は好きやし。
ゆとりやし本読まへんやろって言われるのがすごい悔しくて僕は本を読み出したんですよ。
僕は同世代のかたにも本のコアな部分とかディープな部分に触れてもらえるようにしたいです。


≫記事は後編へと続きます。
後編では、より良い恵文社を目指す鎌田さんの熱いお話を伺っています。
鎌田さんのパーソナルな部分も垣間見え、非常に興味深い内容となっています。

≫【後編】「恵文社一乗寺店」 若き書店マネージャー   鎌田裕樹さんが目指す恵文社の新しいカタチ

≫恵文社一乗寺店のホームページはコチラ

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kawashima

この記事を書いたひと マル

京都の大学に通う学生ライター。 丸顔なので「マル」というペンネームに。 学生ライター仲間を募集しています!
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