文学と工学の粋を結集! 花咲く大山崎山荘で漱石アンドロイド先生にお逢いする~
没後100年の2016年、生誕150年の2017年と漱石アニバーサリーが続くなか、各地で夏目漱石に関する催し物がとり行われています。
京都府でも、乙訓(おとくに)郡大山崎町のアサヒビール大山崎山荘美術館にて、「生誕150周年記念 漱石と京都―花咲く大山崎山荘」と題した展示およびイベントが、2017年3月18日(土)から5月28日(日)にわたって開催されています。
今回は3日間限定のイベントとして、二松学舎(にしょうがくしゃ)大学の「漱石アンドロイドプロジェクト」で製作された夏目漱石先生がいらっしゃるとのことで、4月16日(日)、花咲く大山崎山荘美術館へ行ってまいりました。
東洋と西洋のエッセンスが盛り込まれた山荘では、異文化間を往来した漱石の思考が肌で感じられるようでした。
≫英文学者からの転身。作家・夏目漱石のルーツは正岡子規にあり?【漱石@京都・前編】
≫京都空襲と建物疎開。白川の水が伝える夏目漱石【漱石@京都・後編】
アサヒビール大山崎山荘美術館へ出発!
阪急河原町駅から準急梅田行で約30分、大山崎駅に到着。
木々の生い茂る山を目指し進んでいきます。
歩いていくうちに、秀吉vs.光秀の「大山崎の戦い」の看板、漱石の句碑など、史跡としての天王山を随所に発見。
花咲く大山崎山荘
山荘の建物自体もさることながら、周りの緑とのコントラストが本当に素晴らしい。
天王山を背景にとり、豊富な樹種の木々が立ち、花々が思い思いに咲き誇っています。
頭上に広がるもみじは、秋には鮮やかに色づいた表情を見せてくれるのだろうなと思いました。
「漱石と京都」展示
※館内は全て撮影禁止です。
展示では、漱石直筆の書簡や原稿、それから山荘を設計した加賀正太郎による『蘭花譜』を見ました。
これが漱石の手で書かれたのだなあと、文字を辿りつつ読みました。
加賀正太郎は、漱石4度目の京都旅行において、磯田多佳(※「祇園と夏目漱石」に登場)によって引き合わされ、漱石に山荘の命名を依頼したのだとか。
蘭をこよなく愛した加賀は、太平洋戦争で物資不足となる中、木版画と写真で蘭のコレクションを残そうと思ったのだそうです。
日本画とも西洋画とも異なる、大胆かつ繊細な絵と写真からは、蘭による感化、蘭と向き合う加賀の誠実な愛情と熱意が伝わってきました。
重厚な柱や梁(はり)、華やかな意匠の家具、色ガラスの窓やレースのカーテン。
建築やデザイン、素材、色彩などの知識があれば、きっともっと楽しめたのだろうなあと思いました。
暖炉の前のソファにすわり、年季の入った肘掛けに手を載せると、この山荘を愛し、守り抜いてきた人たちの思いが伝わってくるようでした。
2階および地下では常設展示を見ることができます。
2階の展示場を一歩出るとタイル張りのバスルームがあり、びっくり!
いよいよ漱石アンドロイド先生にお目にかかる!
時間になると、あらかじめ準備されていた椅子のほか、立ち見の人で会場はいっぱいに。
拍手でお迎え下さい、という司会者の言葉で、漱石アンドロイド先生が登場!
「座ったままで失礼します。
皆さんご無沙汰ですね。
ほぼ100年振りというところでしょうか。
昔、『夢十夜』という小説の中で、「100年待っていてください。きっと逢いに来ますから」というセリフを書いた覚えがありますが、100年待って頂いてありがとうございます」
と語りかける漱石アンドロイド先生のすがたに、涙がこぼれそうになりました。
漱石アンドロイド先生はまず、生まれてから「49歳でいったん皆さんの前から姿を消すまで」のことについて語ってくださいました。
それから大山崎山荘との関わりについて、最後に『私の個人主義』の一部を朗読してくださいました。
アンドロイドの造形、話の内容に合わせて動く姿勢やまばたき、声の抑揚、司会者とのやりとりからは、工学的研究の成果を。
表情、しぐさ、服装、上品かつユーモラスな語り口からは、文学的研究の成果を感じました。
まさに理想の漱石アンドロイド先生であり、一家に一人はほしい。
そして読み聞かせや講義をしてくださったらと考えてしまいました。
撮影禁止の館内ですが、漱石アンドロイド先生は、特別に撮影を許可してくださいました。
3日連続(14日、15日、16日)のおつとめで、そろそろお疲れのご様子。
「先生はたいへんデリケートにできておりますので、強く刺激することはなさいませんように……」
という司会者の言葉で、会場は笑いに包まれました。
撮影タイムを終え、名残惜しい気持ちで美術館をあとにしました。
編集後記
漱石アンドロイド先生は二松学舎に帰られますが、「宝寺の隣に住んで櫻哉」という俳句に詠まれたような、花咲く大山崎山荘での展示は5月28日(日)まで見ることができます。
この期間を過ぎますと、美術館は9月15日(金)まで大規模修繕工事に入られるそうです。
1915年の春に漱石が訪れたときは、まだ建築途中であった山荘。
1967年に加賀家の手を離れてからは老朽化が進み、1989年には山荘を取り壊す計画も立てられました。
これに地元有志の方が中心となって保存運動を展開、京都府や大山崎町から要請を受けたアサヒビール株式会社が山荘を復元し、美術館として開かれることになりました。
和と洋、自然と人為が美しく融合する山荘で漱石アンドロイド先生にお逢いできたことはたいへんな喜びであり、また有り難いことだと感じました。
この機会に、花咲く大山崎山荘美術館へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
開館時間:午前10時から午後5時(入館は午後4時30分まで)
入館料:一般900円、高・大学生500円、中学生以下無料、障害者手帳をお持ちの方300円
休館日:月曜日
詳しくは、アサヒビール大山崎山荘美術館HP:http://www.asahibeer-oyamazaki.com/
二松学舎大学漱石アンドロイド特設サイトHP:http://www.nishogakusha-u.ac.jp/android/
青空文庫『夢十夜』:http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/799_14972.html
青空文庫『私の個人主義』:http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/772_33100.html