製造業といった事業では設備投資は会社の将来を左右する大きな意味を持ちます。
製造業以外でも高額な設備投資をする場合、失敗は経営破綻につながるので事前に計画を立てることが必要です。
特に投資額が適切かどうかは重要な問題なので、客観的に判断する必要があります。
今回は適切な設備投資額を決定するための目安と計算方法を解説します。
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【ライター】嶋崎 -
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設備投資実行までのプロセス
設備投資を実行するにはその目的を明確にすることからはじめて、実行までのプロセスを計画することが必要です。
目的を明確にする
設備投資の目的にはいろいろあります。
合理化のためか、生産性向上なのか目的を明確にしましょう。
設備投資案の策定
設備投資の目的を明確にしたら、目的にそった具体的な投資案を策定します。
設備機械の投入、工場の新設あるいは改修といった具体案を策定します。
設備投資の意思決定
策定した設備投資案をいろいろな視点から検討して実行するかどうかを決定します。
その際重要なのは設備投資の経済性評価を客観的に行なうということです。
資金調達
必要な金額に応じて設備投資資金の調達を行ないます。
融資のスピードや金利などを考えて、資金調達の方法を選びましょう。
設備投資の実行
設備投資が適切かどうかを客観的に判断するには、3の段階で設備投資の経済計算をする必要があります。
どんな目的で設備投資を行なうにしても、利益がマイナスになっては実行する意味がないからです。
それでは具体的にどのように計算するのかを解説しましょう。
設備投資の経済計算
設備投資の計画案はなるべく複数策定することが大切です。
その上で各計画の経済計算を行って、最も効率的な計画案を選択しましょう。
投資利益率法
投資利益率(ROI)は投資金額がどれだけの利益を生み出すかという指標です。
計画段階では利益増加額は確定していないので、予想増加利益に基づいて計算することになります。
投資利益法ではプロジェクトの採算性評価ができますが、投資額の回収を考慮していません。
キャッシュフローの考え方を考慮した他の計算方法と併用して利用しましょう。
回収期間法
回収期間は投資金額が何年で回収されるかという指標となります。
回収期間法では資金繰りを融資によって調達する場合に、返済期間を適切に設定するのに役立ちます。
しかし、収益性に関してはまったく考慮されていないため、投資利益率法と併用して設備投資の計画案を判断する必要があります。
正味現在価値法
正味現在価値(NRV)を判断基準にする方法は、投資する金額と将来入ってくる金額を現在価値で比較する方法です。
例えば現在手元にある1,000万円と1年後に手に入る1,000万円は現金価値としては同じです。
しかし、1,000万円を1年間定期預金として預けると利息がつくので、現在手元にある1,000万円が経済的価値は高くなります。
正味現在価値法では、将来の金額も現在価値で統一するという考え方です。
Rは期末利益、Nは年数、rは割引率(金利や国債利回りなど)を表します。
上記の計算式ではわかりにくいので、具体的に数字を当てはめてみましょう。
設備投資額500、割引率10%、キャッシュフロー(期末利益)は毎年100ずつ増加するとして4年間計算します。
上記ではNRVはプラスとなるので、投資は価値があると判断できますが、割引率が20%の場合はマイナスとなります。
このように割引率によって大きく左右されるため、割引率の根拠があいまいな場合は結論の信ぴょう性も低くなります。
内部利益率法
内部利益率法は期待される利回り以上に内部利益率が高い場合、投資に価値があると判断する方法です。
内部利益率(IRR)は投資額と将来キャッシュフローが等しくなる収益率ということができます。
つまり正味現在価値(NRV)がゼロになるのがIRRです。
IRRの計算方法は複雑なため表記が難しいですが、エクセルシートなどが公開されているので参考にしてください。
算出したIRRが調達コスト+利益を上回ると、設備投資の効果があると判断できます。
しかし、IRRはキャッシュフローが永続的にある場合は計算不能で、計算結果が複数あったり、全くなかったりというケースもあります。
中小企業の設備投資レベルでは内部利益率法を使用する必要はないでしょう。
具体的な経済計算の活用方法
それでは具体的なケースを例にして経済計算から設備計画の判断をしてみましょう。
新規事業への進出
新規事業によって下記の収支の増減が予測できる場合、経済計算ではどのように結論付けられるのかを検討してみましょう。
・設備投資金額2,000万円(耐用年数20年)
・売上原価1,200万円増(減価償却費100万円、その他1,100万円)
・販売管理費用の増加分600万円
・全額融資で資金調達(年利3%60万円返済期間15年)
・収益関係税増70万円
投資利益率で計算する場合、増加利益は利払前、税引前、減価償却後の数字を使用します。
利益増=2,000万円(売上高増)―1,200万円(売上原価増)―600万円(販売管理費増)=200万円
投資利益率=200万円÷2,000万円=10%
回収期間法では利払後、税引き後、減価償却前で利益増を計算するので、増加利益は下記の通りになります。
200万円(投資利益率で使用した利益)+100万円(減価償却費増)―60万円(支払利息増)―70万円(税金増)=170万円
回収期間=2,000万円÷170万円=11.8年
上記ケースでは投資利益率は10%と借入利息よりも高くなり、回収期間は返済期間や減価償却期間よりも短いため、新事業への進出は有効と判断できます。
最新設備の導入
設備投資をする場合、複数の設備機器の候補があるというのはよくあります。
その場合、同じ条件で比較してどちらの設備機器を導入すべきか判断する必要があります。
2つの設備機器AとBがある場合でどちらがより効率的かを具体的に計算してみましょう。
A | B | |
---|---|---|
材料費改善 | 2% (1,000万円) |
3% (1,500万円) |
労務費削減 | 2名 600万円 |
3名 900万円 |
機械購入代金 | 1億円 (耐用年数10年) |
1億3,000万円 (耐用年数10年) |
資金調達方法 | ABともに融資 (年利3%返済期間10年) |
|
収益関係税 | 100万円増 | 300万円増 |
Aのケース
▼投資利益率
利益増=600万円(人件費減)+1,000万円(材料費減)― 1,000万円(減価償却費)=600万円
投資利益率=600万円÷1億円=6%
▼回収期間
利益増=600万円(投資利益率での利益増)+1,000万円(減価償却費)―300万円(支払利息増)― 100万円(税金増)=1,200万円
回収期間=1億円÷1,200万円=8.3年
Bのケース
▼投資利益率
利益増=900万円(人件費減)+1,500万円(材料費減)― 1,300万円(減価償却費)=1,100万円
投資利益率=1,100万円÷1億3000万円=8.46%
▼回収期間
利益増=900万円(投資利益率での利益増)+1,300万円(減価償却費)―390万円(支払利息増)― 300万円(税金増)=1,510万円
回収期間=1億3000万円÷1,510万円=8.6年
AとBを投資利益率と回収期間の数値で比較してみると、投資利益率はBの方が上回りますが、回収機関は0.3年(約4ヶ月)Aの方が早いことがわかります。
このように経済計算は、はっきりと数値として表されるので設備機械の比較にも役立ちます。
ちなみに上記の場合は、設備投資額回収後に耐用年数まで設備を使い続けたときの利益が74万円Bの方が上回るので、Bの設備投資をするべきということがわかります。
設備投資の影響
設備投資によって利益増や経費節減に結びつくという利点がありますが、固定資産を取得することによって新たな税金もかかることになります。
最も直接的に影響があるのは固定資産税です。
また利益が増えることによって法人税にも間接的な影響があることは間違いありません。
設備投資を検討する場合は、そうした税金に関する観点からも充分に検討しましょう。
特に中小企業には優遇税制が適用となることも多いので、事前にそうした情報を収集しておくと節税に結びつきます。
また、設備投資は広い意味で考えると、環境問題や将来の収益確保のための研究開発費も含まれます。
研究開発を実施する場合も設備投資と同じように、予測による増加費用や当期利益などを考慮して経済計算によって客観的に検討しましょう。
まとめ
大きな設備投資は個人事業主ではほとんどありませんが、民間企業の中でも製造業といった業種では一般的なことです。
設備投資の計画しだいでは営業利益や経常利益の増減など、損益に影響があるだけではなく、固定費などの現金支出にも大きく影響します。
そのため設備投資を客観的に判断するためにも、設備投資の経済計算は重要となります。
設備投資は一度実施するとやり直しが効かないので、設備投資をあらゆる視点から検討できる知識を身につけましょう。